2009年11月19日

10月14日。初台の東京オペラシティ・リサイタルホールで開催されたアンサンブル・ノマド第35回定期演奏会 時代を創造するパイオニアたちVol.1「美しき異端児の耳=リュック・フェラーリ コンサート」無事終わりました。なかなか報告できませんでしたが、公演後は今年中にリリース予定の新作CDつくりに集中していました。

昼過ぎに会場入り。すでに会場には音響デザイナーの小林さんとTaguchi、ON-COO Projectの代表である田口さんとが音響システムのセッティングを終えていた。またピアノの調律とフェラーリの音響作品を奏でる国立音大の音響システムのサウンドチェックが行われていた。さっそく私とさとうじゅんこもセッティングを開始。我々は客席後ろの中央に卓を配置し会場全体の空気感を感じる。まず小林さんがサウンドチェック。ホワイエでは田口さんと岸本さんが、私の音を使ってサウンドチェック。三浦さんもインスタレーションのセッティング。フィンランドのバーチ材を使用した小さなREXを2本とボディに紙を使用したREX2本で音場をつくる。

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決してひとりでは実現できない。我々チームの作品です。

小林さんのサウンドチェックが終わり、私の音を奏でながらさらに最終のサウンドチェック。今回は5.4ch+0.4chのサウンドシステム。アウトプットは5chマルチトラック。すべて平面波ユニットを採用し音のリアリティと音の空気感、そしてエネルギー感とスピードに徹底的にこだわり音つくり。フロント左右にメインスピーカー2本とセンタースピーカーに同じものをセッテイング。60mmの平面ユニットを18発デザインしたものもで、縦が長く客席の前から後ろまでまでしっかり音をカバー。

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当日はシステムの写真を撮る時間がなかったので
横浜のZAIMで発表した作品「百葉窓」のもの


左右にそれぞれに丸型で直径250?の平面ユニットのウーファー2本をプラニング。平面波ウーファーの低域は高域と同時に届く。高・中・低域の音波が耳に到達するまでの時間が一致することによって自然な音場再生を実現。このスピードは体感しないと伝わらない。

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「百葉窓」/ ZAIM


またフロントの3本のスピーカーをはさむようにREXを4本プラニングして豊かな立体音響をつくる。

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「百葉窓」/ ZAIM


リアにはsound+dance+visual vol.7 作品「セクエンツィア~さひづる庭」で、横浜美術館の巨大なグランドギャラリーに1本でアンビエントをつくることができた20面体平面スピーカーを贅沢に2本プラニング。天井の高いホールを音粒で包み空間を開け放つ。それぞれにウーファーを2本。

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「セクエンツィア~さひづる庭」/ 横浜美術館グランドギャラリー


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「百葉窓」/ ZAIM


このような音響システムを実現させてくれた田口さん、小林さん、ノマドの佐藤紀雄さんに感謝いたします。

サウンドチェックをしながらそれぞれのトラックを細かく調整していく。マルチは音を移動させることが大切ではなく、どれだけリアルに音の空気感を存在させるかです。ある瞬間にパーと視界が広がる。小林さんと顔を見合わせニッコリ。こういう瞬間に立ち会えて嬉しい。我々はたっぷりサウンドチェックの時間をいただけました。協力していただいた国立音大にも感謝しています。サウンドチェック中にフェラーリの奥さんが音を奏でるたびに「素晴らしい音」と何度も声をかけてくれる。嬉しかったです。ホワイエの音つくりは順調に進む。三浦さんの空間デザインのコンセプトは「フェラーリのテイスト、アプローチは、テクニカルなものではなく、出来事への興味そのものということなど考え合わせ、こぎれいにまとまったデジタルより、アナログの方が適している」とシンプルに徹する。

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サウンドチェックを終えゲネプロ兼リハーサル。木ノ脇さんとの作品「海辺のノマド」。ステレオではなくマルチで奏でるのでリアルタイムのボリューム調整が難しい。小林さんとの呼吸が何よりも大切になる。さとうじゅんこが全体を客観的に聴く。本番に向け課題がたくさん見つかる。限られた時間で調整が必要になった。一度しか通せませんでしたが本番が楽しみです。他の作品もリハーサル。フェラーリの音源は国立音大のシステムで奏でる。フロントにメイヤーの大きな箱型スピーカーとウーファーをリアにやはり箱型のモニタースピーカーを2本プラニング。メイヤーはTaguchiスピーカーとまったく異なる音質。私は開場から開演、転換、休憩、終演後にひとつの作品として新作「les silences sonores(2009)」をTaguchiスピーカーから奏でるので、メリハリが生まれて面白いと思う。

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何とか「海辺のノマド」の調整がつき本番を待つのみ。あっという間に開場の時間になる。小林さんが早朝のテキサスで収録した無数の鳥のさえずり。なかなか日本では録音できない空気感。天井の高い空間に巨大な空間が広がる。ホワイエでも奏でる。時間が経つにつれ鳥が少なくなり車の数が増えていく。最後に鳥が一羽さえずり静けさが生まれ開演。一曲目の「ディダスカリー2、あるいは音符を探す3人の登場人物」の演奏が終わり、私が音を奏でる。ピアノの調律があり少し残念でしたがこれはこれで面白い。最後に音の空気を奏でると静かに耳を澄まし音に酔うお客さまの姿が見え嬉しくなる。

「パリ-東京-パリ」の演奏が終わり休憩時間。屋久島で収録した雨を降らす。20面体スピーカーが本物の雨の空気感や匂い立つ音のリアリティを奏でる。「雨が降っているのに身体は濡れていない不思議な感覚」と言っていただける。途中からさとうじゅんこのvoiceのみの作品。雨と声が調和しやさしさを生む。終演後にオペラシティの担当者から、実際にあの時間に雨が激しく降って来て…というお話しを聞き何だかとても楽しい気持ちになりました。

いよいよ木ノ脇さんとの「海辺のノマド」。ほどよい緊張感のなか集中する。ライブのいいところはその時の空気感を感じ小さくまとまらないで攻められるところ。この作品だけ生楽器をPA(スピーカーから奏でない)を使わない。生楽器と電子音がリアリティのある音を感じさせる。リハーサルの課題もクリアし記譜されているもの以上のものが生まれたと感じた。その場でしか体感できない音の空気感。公演後にたくさんの感想をいただきました。励みになります。木ノ脇さんが私の音を感じて作曲してくれたことが何よりも嬉しかった。生楽器と電子音響が波のように押しては引き弾いては押しバイブレーションが…もう少しでしたが、やはり本番と同じ環境で一度のリハーサルではなかなか難しい。このへんを改善できるような環境をつくっていきたい。今回、木ノ脇さんとご一緒でき新しい展開が見えてきました。今後、木ノ脇さんといろいろな企画でご一緒できると嬉しいです(木ノ脇さんのフルートと1対1で戦い調和したい気持ちもある)。それまでさらに高めていきたいと思います。

作品「海辺のノマド」では私がゼロから生み出した力強いエネルギー感や繊細な音粒の電子音、日本中でフィールドレコーディングした音を奏でました。沖縄の久高島で録音したフェリーのエンジン音やサイン波のような虫の音。沖縄で収録した蛙の鳴き声。尾瀬や霧降高原、旭川の虫の音。横浜の港の空気。自宅のバルコニーで録音した雷などなど。すべてそれとわかるような音つくりはしていませんが、作品「海辺のノマド」を感じさせる音の空気感で構成しました。またいつか再演できると嬉しいです。(翌日、京都の同志社大学寒梅館 ハーディーホールで再演しましたが、私の音を2枚のCDに落として、木ノ脇さんと作曲家でアクースモニウムの演奏家の桧垣智也さんに託しました。桧垣さんに無理を承知で演奏していただき感謝しています。)

「海辺のノマド」から「失われたリズムを求めて」は「海辺のノマド」の空気を大切に益子で録音した蛙の鳴き声をシンプルに奏でました。終演。最後にサイン波で構成した音のバイブレーションを奏でました。会場には低域を奏でるウーファーがありましたが、ホワイエにウーファーをプラニングしていませんでしたので、小林さんのアドバイスもありスピーカーの特徴を生かせる周波数で奏でました。耳を澄まし聴いていただいてる人の後ろ姿を見てほんとうに心躍りました。作品「les silences sonores(2009)」を発表できたこと感謝しています。

本公演にはたくさんの方が聴きに来てくれました。公演全体はフェラーリの思いが伝わった公演になったがわかりませんが、いろいろな感想をいただき、今後に繋がる機会になったと実感しました。ありがとうございました。このような機会を与えていただきアンサンブル・ノマドの関係者に心から感謝いたします。また、いつかご一緒できるのを楽しみにしています。

後日、久高島や霧降高原、益子でのフィールドレコーディングの旅をご報告したいと思います。

at 19:54│コメント(0)トラックバック(0)go taneda │

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